医療現場では、がん化学療法を施行した場合、十分な効果が得られない、あるいは重篤な副作用を生じるなど様々な課題に遭遇します。本研究では主に天然化合物等に着目して、各種抗がん剤の効能または副作用に影響を与える物質を探索します。特に、抗がん剤耐性が生じてしまうと手術などの外科的手法しか治療方法がなくなってしまうため、抗がん剤耐性を引き起こす物質の探索に励んでいます。このテーマでは主に培養細胞を用いて実験します。

　具体的には、各種がん細胞に対する抗がん剤の効果を評価すると同時に、薬物トランスポーターや薬物代謝酵素に関連する遺伝子やタンパク質の発現量の変化を real-time PCR法や Western blot 法などで評価します。さらに抗がん剤の取り込み量の変化なども評価していきます。

　薬物代謝酵素シトクロム P450（CYP）を介した薬物相互作用は、薬剤師が医療現場で最も多く直面する問題のひとつであり、予期せぬ副作用が出現したり、期待した治療効果が現れないことがあります。CYPを介した薬物相互作用は、競合的阻害や不可逆的阻害、CYP発現量の増加（誘導）や減少など様々な機序が考えられますが、医薬品の添付文書では「機序不明」とされている相互作用も多数残されています。このテーマでは、薬物相互作用を引き起こす物質として抗がん剤等に着目しています。

　具体的には、ラットに抗がん剤等を投与し、併用薬の血中濃度を測定して体内動態変動の有無を調べるとともに、組織中の薬物代謝酵素の活性やその発現量、併用薬のタンパク結合率の変化等を調べることで、薬物相互作用の機序を解明していきます。血中薬物濃度またはその代謝物濃度の測定が重要となるため、高速液体クロマトグラフィー（HPLC）などの機器を用いて実験を行っています。

　現在の医療において、薬物治療だけでは症状が改善しない症例も少なくありません。そのため、各医療施設では優れた補助療法の開発に力を入れています。その中、我々の共同研究施設ではアロマテラピーに着眼しています。アロマテラピーの有効性は知られてきていますが、その芳香種の有効性や適切な選択に対する客観的な根拠は少ないのが現状です。

　そこで我々は、アロマ芳香種の感応性に対するアンケート調査を実施した上で、統計的手法によりその有効性や選択に対する客観的根拠を得ることを目指します。

　医療機関で働く薬剤師の業務は、処方箋のお薬を正しく調剤し、患者さんへ提供するだけではありません。2010年に厚生労働省から「チーム医療の推進について」が提示されて以降、薬剤師業務は対物業務から対人業務へと拡大され、薬剤師の活躍の場は調剤室の中から外へと広がってきました。さらに、健康サポート薬局制度など、薬局としても地域住民による主体的な健康の保持増進のために様々な取り組みが行われています。本研究では、薬剤師が中心となって行っている様々な活動をデータ化し、それらの有用性を社会へ発信することを目的として、医療現場の先生方と共にアンケート調査を実施しています。